
2007年に発売された「パックマンチャンピオンシップエディション(以下パックマンCE)」開発メンバーへのインタビューvol.2です。 中島さんが描いたアイディアメモをベースに作られた新しいパックマンの企画、岩谷氏へのプレゼンテーションの結果は果たしてどうだった のでしょうか?

ーー それで、岩谷さんに見てもらったわけですね。
中島ええ。この時点で了解を頂かなくちゃとお呼びしてプレゼンしたんですよ。そしたらなんと「わかんねえなあ」と言われちゃって……。
井口片面ずつステージを書き換えていくという仕組みがピンとこなかったようです。 そもそもゴーストというのは無限にいちゃだめなんだよ、と説教もされました。
大西ゴーストって言うのは人格を持った仲間であり家族である。赤いゴーストが2つ同時に存在してはいけませんと、 岩谷さんから「パックマン憲章」とでもいうべきガイドラインの遵守を強く言われました。
中島ゲームデザインそのものに大きくメスを入れることにはやっぱり抵抗があったんでしょうね。僕たちのイメージもうまく伝えられなかったし、 「本当にできるのか?」って不安に思われてしまったようです。
ーー ではこの案も没にされたのですか?
大西いいえ。岩谷さんには厳しくダメ出しされましたが、僕は絶対におもしろいはずだと信じていたので、勝手に試作版を作っちゃいました。
井口3日後くらいには基本的なものはできてたよね(笑)。
中島最初の案は正直自分達でも中途半端だと思っていたところもあったので取り下げたんですが、今回のアイディアは絶対におもしろい、 新しいという確信があったので、そのままゴーすることにしたんです。
ーー 開発にあたってイベントのことはある程度意識されましたか?
井口もちろんです。そもそも岩谷さんのいちばんのモチベーションも、ニューヨークで行われるイベントをどうやって成功させるかでしたしね。
中島イベントってそんなに長くやるわけではありません。長くても数十分で終わらないとプレスの人も帰ってしまいます。 ところがオリジナルパックマンは延々と終わりがないんですよ。1999年にビリー・ミッチェルという人が6時間くらいかけてパックマンを ノーミスで256面までクリアしてハイスコアを出したんですね。恐らく世界中の強者はそれぐらいかかるだろうから、そういうのはやめようと。 そういうゲーム性とはまったく真逆の、ほんとに短時間で決着がつくレースゲームのようなものにしようと考えました。
井口そうですね。レースゲームっていうコンセプトは最初からありましたね。最初からタイムアタックの形だったですしね。
大西その時になんとなく頭の中にあったのが、大会の会場にスクリーンがあって、決勝に残った人が左右同時にスタートして 5分間タイムアタックするという光景です。ゴールに向かってどうやって途切れさせずに最後まで一気に盛り上がってもらうか、 そういう光景をみんなイメージして作りましたね。
中島決勝戦はバアーッと盛り上げていかなくてはいけない。だからサッカーの試合のように断続的に盛り上がり、 どんどん螺旋状にゲームが進行していき、最後に大団円を迎えて終了する。だからほんとに大会エディションなんだよね。
ーー そのとき大西さんが作られた試作版は岩谷さんに見ていただいたんですか?
井口途中経過は見せない方がいいって中島さんにアドバイスされたんですよ(笑)。
中島岩谷さんにお見せするのは、絶対おもしろいという確信ができてからにすることにしました。 完成度が上がった時点で「いや実はですねえ……」みたいな感じで見せるという作戦にしたんです。

ーー 開発はどのような感じで行われたのでしょうか?
井口そうですね。試作版を作っている1カ月くらいの間は本当にいろいろ試行錯誤しました。例えばゴーストの数。 最初大西君のアイディアで僕がいいと思ったのは、画面内にゴーストがいっぱい溢れるってところだったんです。ゴーストが増えると緊張感も 上がっておもしろくなるかなあと。ところが岩谷さんは同色のゴーストを複数登場させるのはNGとおっしゃる。 だったら種類を増やしたらどうかという話もあったんです。
大西白とか緑のゴーストを作りましたよね(笑)。
井口結局そのアイディアは採用しませんでしたけどね。そもそもなぜゴーストの数を増やそうと思ったかというと、オリジナルの 縦長から横長へと画面が広がったことにより、マップが広がりすぎてゲームとしての緊張感が失われてしまったからなんです。最初はパックマンの スピードも固定だったため、難易度が低いというより単に展開が遅いという感じだったんですよ。
中島あとクッキーの配置ね。
井口ええ。オリジナルパックマンは迷路のすべての場所にクッキーが敷き詰められているんですが、この大きな画面にギッシリ詰め込んでしまうと、 初心者は途方にくれてしまうんですよ。そこで、クッキーの数を最初は少なくして、だんだん増やしていくことにしたんです。プレイヤーは配置してある クッキーを順番に食べていくことで確実に先に進める。ちょうどクッキーが導線になるようにしたんですね。こうすることで、パックマンをあまり知らない人でも 楽しめるかなと思ったんです。
中島ゲームの難易度の考え方ですよね。確かにこのゲームはチャンピオンシップ大会用に開発をしています。レースで言えばF1レース用の車を 作っているようなものですね。でも同時に誰もが楽しめるカジュアルなゲームにもしたかったんです。実はオリジナルパックマンって結構難しいんですよ。 でもこの時代に出すパックマンは、もっともっと本当に多くの人に楽しんでほしい、チャンピオンシップに出るようなエキスパートも、 始めて遊ぶような本当の初心者もどちらも十分楽しめる、幅の広いゲームにしたいと思ったんです。
ーー 初心者にも楽しんでもらいたいと。
中島ゲームというのはその世界の中に入るかどうか判断する瞬間、つまり導入部分がいちばん大事なんです。だからとにかく多くの人に 扉を開けてほしいというのがあったんですね。そういう意味で初心者にもゲームの達人にも両方楽しめるバランスがとれたゲームにしようと意識しました。
井口スピードと点数を連動させたのもそのためです。つまりうまい人は点数を上げるために必ずゴーストを食べるので点数がどんどん上がる。 するとスピードもどんどん速くなって難易度も上がっていく。反対にパックマンをあまり知らない人はゴーストを食べないので点数も増えず、スピードも あまり速くならない。その人なりのテンションで最低でも5分ぐらいは遊ぶことができるというように調整したんです。 これはたぶん大西君が試してくれてすぐに採用したアイディアですね。
中島挑戦するとハイリスクになるが得られるスコアが大きいというのは、実はゲームの基本なんですね。
井口このようなゲームのバランスを取っていく作業に貢献してくれたのがサウンドを担当された小沢純子さんです。 彼女はこのゲームに関しては初心者に近い状態だったので、彼女に遊んでいただいて、おもしろいと言ってもらえるくらいまでに もっていかないと岩谷さんのチェックは通らないだろうという考えで進めました。

ーー 基本的にルールはオリジナルパックマンと同様ですよね。
大西ええ。オリジナルパックマンのルールだけ知っていればチャンピオンシップの方も遊べるはずです。
中島新しいゲームを作るからと言って、要素を足していけばいいってもんじゃないんですよね。ゴーストを増やせばいいというわけではなく、 逆に要素は減らして、減らした中でいかにうまく調整するかというところが大事だと思うんです。
井口そういう意味ではフルーツがまさにそうでしたね。実は面を更新させるきっかけは作りながら考えていたんです。 最初は画面半分のクッキーを食べたら更新だと思っていたんですが、そういえばパックマンってクッキーを半分食べるとフルーツが出たよなあと、 じゃあそれをちょうど当てはめちゃえるなあと思いついたんです。そのおかげでフルーツという物の存在感が、それまでのシリーズのような単なるご褒美アイテムではなく、 面クリアのきっかけという大きな物に変化したんです。
大西あ、火花もそうですね。CEはレバーの先行入力をすると火花が出て速く動くように見えるのですが、それは別に速く動いているわけではなく、 オリジナルパックマンとまったく同じ動きをしているだけなんです。
井口コーナーがあるとゴーストは直角に曲がりますが、パックマンはショートカットをするのでちょっと速いんです。つまりパックマンは 曲がれば曲がるほどゴーストとの距離を離せるのです。だから追っかけられた時にはできるだけまっすぐではなく曲がった方がいい。 これはオリジナルパックマンをやりこんでいる人にとっては常識なのですが、僕らも最初はそんなテクニックがあるとは知りませんでした。 だから火花という効果を使ってそのことをわかりやすくしたんです。
大西実は開発中はドリフトさせようとかも言ってたんですよね(笑)。
田名網作ってみたけど、なんか見栄えがいまいちだったんですよ(笑)。
中島で、ここまでやったものを岩谷さんに見せて、ようやく「おもしろいね、楽しめた」という言葉を引き出すことができました。
ーー その時はほぼゲームは完成していたのですか?
大西完成とは言えませんが、ゲームの基本構造はほとんどできていましたね。
中島岩谷さんの言葉を聞いて「やったあ」ですよ。ここでNGが出たらもうニューヨークどころじゃないですからね。太平洋に沈められる(笑)。 あとはもうイケイケですね。ビジュアルの追い込みを田名網君ががんばってくれました。
( 続く )




