
パックマン30周年を記念して行われるビッグ対談企画。第3弾はポケットモンスターのクリエイターとしてあまりに有名な田尻智さんと、ミュージシャン・作家・タレントのいとうせいこうさん、さらに司会に伊藤ガビンさんを迎えた豪華なメンバーでパックマンについてたっぷりと語っていただきます。

ガビンではここでポケットモンスター(以下ポケモン)の話しをお伺いしたいんですが、ご存じの通りポケモンはゲームボーイ(※1)のソフトなんですが、当時(初代ポケモンの発売は1996年2月)のゲームボーイは発売からかなりの期間が過ぎており、あまり話題にも上らなくなってきていた時期ですよね。
田尻はい、おっしゃる通りですね。
ガビン僕は田尻さんが草の根BBS(※2)で、「こういうゲームを作りました」と報告していた時のことを凄く覚えているんですが、その時田尻さんは「ゲームの出来には自信があるんだけど、ゲームボーイで、しかも二本組みで出して本当に大丈夫なのか」みたいなおっかなびっくりな書き方だったんですね。でもそれが大成功して今でも続いているわけじゃないですか。
田尻そうですねえ。
ガビンその頃のゲームって、ポリゴン(※3)などを使って進化したグラフィックの方向にみんなが行っていたと思うんだけど、ポケモンはゲームボーイのスペックもありドット絵でしたよね。ドット絵って田尻プロ的にはかなり大事なものなのでしょうか?
田尻そのとおりですね。僕は絵は描けないんですけどドット絵は描けるんですよ。
(一同大笑)
いとうそうなんだ(笑)
田尻点点の集まりだってわかると描けるんですよ。
いとうほほう。
田尻だからね、ヨッシーのたまご(※4)でもパックマンと同じようにボーナスアイテムとして色々なフルーツが出てくるんですが、それは僕が描いてましたね。
(一同大笑)
いとうへぇ、おもしろいねえ。
田尻ドット絵でリンゴとかを描くのは楽しいですよ。当時は絵が描けない僕でもドット絵であればちゃんとゲームらしい絵を描けるっていうのはすばらしい事だなと思ってましたね。

ガビン今でもドット絵に対する強い思いみたいなものがあるんですか?
田尻僕自身にはありますね。例えばポケモンの戦闘シーンでは、自分が出したポケモンと相手が出したポケモンが向かい合うんですけど、その時相手のポケモンは普通に描いて、自分のポケモンは後姿にしてドットをわざと荒くして大きく描いたんです。もうどのポケモンかよくわからないくらいに。でもそうすることにより、近くのものがピンボケしているように見えて立体感が出るんですね。このように世界をドットで考えてリアリティを出していくということが非常に魅力的に思えるんです。
いとう大事なことですよね。
田尻ドット絵でも工夫すると現実感がより増すような事が起きたりするんですよね。そこが面白いんですよね。
いとうあはは、かわいいじゃん。
ガビンせいこうさんが「ノーライフキング(※5)」で書いた世界というのも、ドット絵のように想像力で補うしかない抽象度の高い世界ですよね。
いとう結局「なにがリアルなの?」っていう話になってくるじゃないですか、写実よりも記号の方がリアルになっている世界。
ガビン伝達が早いし情報量も多いしね。
田尻そうですね。
ガビンでも大変ですよね。どうしてもリアルな表現を求められちゃうじゃないですか。
田尻もちろんゲームフリークにもポリゴンCGを作る技術はありましたけど、あえてポリゴンを使わずドット絵での表現にこだわりましたね。立体的に見えるんだけどよく見るとドットのかたまりだという、そういう微妙な質感を出せれば成功だと思っていました。
ガビンなるほど。
田尻でも、これだけドット絵にこだわっていたにもかかわらず、当時散々「田尻君、これからはポリゴンだよ」みたいに言われ続けたから、「ポリゴン(※6)」っていうポケモンを出したんです。
ガビンそうだったんだ(笑)
いとう「わかりました、ポリゴンやりましょう」とか言って(笑)
田尻今のゲームクリエイターはドットの事は考えないで、最初からCGで作って完成させるって人がほとんどなんでしょうけどね。

ガビン今のお話をきいて大変偶然だと思ったんですけど、岩谷さんが関わられた最新のパックマンである「チャンピオンシップエディション(以下CSE)」のスタッフに前回インタビューをお願いした(※7)んですけど、グラフィック担当の方(※8)もやっぱりドット絵にもの凄くこだわりを持たれていて、Xbox360を使った現在の3DCG技術と、高精細なハイデフ画面で、ドット絵の表現や、昔のゲームセンターのようなキラキラ光ったネオン管のような質感を表すのに注力したとおっしゃっていたんです。 ちょっと実際の画面を見ていただきたいんですが。
田尻(CSEの画面を見て)おお凄い!実は以前に一度見たことがあるんですが、やっぱりよく出来てますよね。
(スタッフが実際にCSEをプレイ)
田尻さっき僕が言ってた、パックマンが角を曲がるときにコーナーを少しだけショートカットできるというのが見てわかるようになってますね。
ガビンさすがすぐ気付かれましたね。このようにコーナーを曲がると火花が出るようになってるんです。
田尻初代パックマンでは実際にプレイして初めてわかったことなんですが、今回は見てわかるようになっているんですね。
ガビン開発者の方も「初心者でも見ればすぐわかるといったゲームバランスの部分はすごく考えました」とおっしゃられてましたね。
田尻なるほど、フルーツを食べると片面ずつマップが更新されていくんですね。で、制限時間があるんですか。
ガビンタイムトライアルですよね。最初は凄く簡単なんですが、段々鬼のような難易度になっていくんですよ。もしよかったらやってみますか?
田尻ぜひ。
いとう田尻プロのお手並み拝見だ。
田尻(コントローラーを握りながら)おー、これは!!火花が散ってる!ドット絵とネオンという……
田尻(ゴーストにつかまってしまう)わーーー!!!!
全員わーーーー!!!
いとうこの夢中感はなんだっていう……
田尻子供に戻っちゃいますね。
ガビンスコアとゴーストのスピードが連動してるので、ゴーストを食べれば食べるほどスピードが早くなっていくんですよ。
田尻そうなんだ。
ガビン完全に23年くらい前のバイト時代の顔に戻ってますね。
(一同大笑)
田尻(またもや痛恨のミス)ううわああああー。難しいねえ。
いとう田尻さん、コントローラーの持ち方をいろいろ変えるんだね。
田尻探り探りやってるんですよ。
いとうさすがだねえ。
(ここでゲームオーバー)
ガビンいかがですか、最新版のパックマンは。
田尻いやあ、これは見入っちゃいますね。最初はクッキーががほとんどなくて、ゲームが進むと少しずつ足されていくという構成もおもしろいと思います。あとやっぱり火花がいいですね。
(一同笑)
いとうそこなんだ、ポイントは
田尻制限時間があるのもすばらしいですね。
いとう昔みたいに12時間やらなくてもいいっていうね。
(一同大笑)
田尻その時代からは進化しましたね。
いとう5分で終われるようになったもんね。
田尻言ってしまえば僕よりパックマンがうまい人なんてて世の中にゴマンといると思うんですよ。一応、僕もある程度のところまでは行ったんですが、本当にうまい人は最終面である256面まで行っちゃうわけですよね。僕はパックマンに関してはそこまでには到らなかったんですよ。
いとう到らなかった(笑)
田尻パックマンの名人というのは世界中にたくさんいますよね。アメリカには256面まで行くだけではなく、すべてのゴーストを倒し、すべてのフルーツを取る、理論上考えられる最高得点を取る人もいる。
ガビンパーフェクトゲームですね。
田尻ええ。で、今はパーフェクトゲームの時間を競っているんですよね。
いとう凄い世界だね。
田尻全くミスをしないで延々とやっているという。
いとううわー、なにそれその集中力。
ガビンで、さっきプレイしてもらったCSEは実はパックマンの世界大会のために作られたゲームなんですね。
田尻ああー。
ガビン世界大会というからにはマスコミの人も大勢集まってくるんですが、さすがにそこで6時間もプレイするわけにはいかないので、タイムトライアルという形になったんです。
田尻なるほど、それはいいですね。
ガビン世界大会の予選はオリジナルのパックマンでやったんですが、決勝で初めてこれを発表したんですよ。
田尻岩谷さんもその時行かれたんですか?
ガビンええ。盛り上がってとても喜ばれていたみたいですよ。
( 続く )





※1 ゲームボーイ:
1989年に任天堂から発売された携帯ゲーム機。
※2 草の根BBS:
インターネット以前、個人やグループが運営していた小規模なパソコン通信のこと。ここで話題にあがっているのは高円寺にあるレコードショップ「マニュアル・オブ・エラーズ」が運営していたBBS。
※3 ポリゴン:
3DCGにおいて立体を表現する際に使用する三角形や四角形の平面データのこと。
※4 ヨッシーのたまご:
1991年に任天堂から発売されたファミコン用ソフト。開発は田尻智率いるゲームフリーク。
※5 ノーライフキング:
1988年に発表されたいとうせいこうの処女小説。1989年に映画化もされた。ファミコンやロールプレイングゲームをモチーフにしている。
※6 ポリゴン:
ポケットモンスターに登場するモンスター(ポケモン)の一種。一昔前のポリゴンを使った3DCGのような角張った外見をしている。
※7 前回インタビューをお願いした:
http://pacman.com/ja/interview/002/vol1.html
※8 グラフィック担当の方:
バンダイナムコゲームス アートディレクターの田名網英樹氏