パックマン30周年を記念して行われるビッグ対談企画。第3弾はポケットモンスターのクリエイターとしてあまりに有名な田尻智さんと、ミュージシャン・作家・タレントのいとうせいこうさん、さらに司会に伊藤ガビンさんを迎えた豪華なメンバーでパックマンについてたっぷりと語っていただきます。


ガビン田尻さん自身は最近はどんな事に興味があるんですか?

田尻インターネット時代になってゲームだけではなく、いろいろなメディアとの付き合い方も変わってきましたよね。僕はゲーム以外でも好き嫌いなくいろいろなことを体験したい方なんですが、例えばテレビを見る時なんかでも、複数のモニターでたくさんの番組を同時に見ているんですよ。

ガビンテレビ局の調整室みたいな?

田尻そうですそうです。

いとうスイッチングはしないんだ。

田尻しませんね。で、そのような環境を作ってみて、結構それでも見ることができる、という事がちょっとわかったんです。

ガビンちょっとわかったって(笑)

いとう大滝詠一(※1)さんもずっとそういう状態で見てるんですよね。ある領域に入っちゃった人はそうなるのかな。

田尻でも、いくらたくさん画面があっても、注目しているのは一つなんですよね。そのとき他のチャンネルがどうなってるかはわからない。逆に言うと、どれだけ画面があっても、選択するという作業はきちんとできちゃうんですよね。

いとうなるほどね。そういえばテレビ局のスイッチャーさんに話を聞いたことがあるんだけど、彼らもたくさんの画面を同時に見て次々とスイッチングしてるわけなんだよね。でも田尻君と違ってスイッチャーさんは選んだ画面を見るのではなくて、常に次の画面を探してるんだよね。つまり僕ら視聴者が今見ている画面はまったく見ていない。

田尻あー。

いとうそれってたぶん脳みそ的には田尻君と近いような事をやってるんだけど、更に分裂させてるんだよね。

田尻面白いですねー

いとう凄いよねー

ガビンで、それはやっぱりなにかに活かそうと思ってやってることなんですか?

田尻ううん、活かすっていうか、、例えば興味のあるDVDやブルーレイディスクをどんどん買ったりすると、あっという間に棚がいっぱいになったりするじゃないですか。これをいつ見るんだよっていう。

ガビンえ?DVDとかも二枚がけとかするんですか?

田尻だからそういうことですよねえ。

ガビンえ、そういうことなんだ?

(一同笑)

ガビンえー、凄いねえ。

いとうすげえなあ。

ガビンいくつまでOK?

田尻いくつまでというか、今はもう契約すればBBCでもCNNでも普通に見れちゃうわけじゃないですか。だから、自分が見たい映像を確実に見れる環境にするためには、もう画面を多くして同時に映して、その中から自分が注目する画面を見るという形にせざるを得ないんですよね。

ガビン想像してみたいんだけど、何個ぐらい画面を並べてる感じなんですか?

田尻今は6画面くらいですね。でもチャンネルはもっとありますから、まだモニターが足りないですよね。

いとう足りないんだ。

田尻さっきも言いましたけど、映画や映像作品を見るのは好きなんだけど、こんなに鬼のように貯めちゃってどうするの?ってことなんですよね。80年代のコレクター達は一度に一個しか見れないから、客観的に見ると一生かかっても見れるはずがないのに集めちゃうっていうどうしようもない感じだったんだけど、今はそれが解決可能になったんですよね。

いとう同時に複数チャンネル見ちゃえみたいな。

田尻そうそう。最近はSPIDER(※2)のように、テレビの全チャンネルを一週間分まるっと録画して、キーワード検索で必要な番組だけ見ることができるものもできてきてるわけじゃないですか。こういうツールが普及すればすべて解決するんじゃないかなと思うんですよね。

ガビンYoutubeとかは見ないんですか?

田尻いや、見ますよ。

いとうすごく忙しいですね、なんでも全部見たいっていう感じなんですね。

田尻そうですね。2ちゃんの実況板なんかもよくチェックしますよ。実況板のレス数って擬似的な視聴率みたいなものじゃないですか。瞬間的に盛り上がっている番組がすぐにわかりますよね。

ガビンほんとに全部見たいって感じなんですね(笑)。

田尻ええ。全部見たい感じですね(笑)。

ガビン音はどうしてるんですか?

田尻その時注目している画面の音だけ出して、後は小さくしてますね。

ガビンそう言えばあんまり寝ないタイプ?

田尻そうですねえ。一時期、眠くなったら寝ようっていう暮らしに挑戦した事があるんですよ。そうすると一日が26時間とか、ちょっと伸びるんですね。

いとう伸びるんだ(笑)。

田尻で、一週間くらいすると元に戻る時がくるんです。

(一同笑)

いとうずれていってね。

田尻ええ。今はもう一日24時間にしてますけどね(笑)。

(一同大笑)

ガビン20代の時に会ったときって、よくカルトムービー(※3)について語ってたじゃないですか。いまだに興味あります?

田尻ありますね。

ガビンポケモンのファンからするとなんでジョン・ウォーターズ(※4)が好きなんだって驚かれませんか?

田尻そうですねえ、でもジョンウォーターズってインディペンデントから出てきて成功した人じゃないですか。最初は親に買ってもらった8mmからはじまって、だんだんフィルムで撮るようになってというプロセスを経てプロとして成長していくという。ジャンルは違いますけど、物作りの先輩として僕は非常に尊敬してるんですね。

ガビンそんないい話になるとは(笑)。


ガビンせいこうさん80年代90年代はゲームについていろいろな形で語ってましたよね。でもその後ちょっとリアル思考になってきたりとかして、ゲームに対する興味が薄れてきたという感じなんですか?

いとうさっきのドット絵の話しじゃないけど、僕も二頭身、三頭身のキャラっていうのが一番想像力をかきたてるんですよね。リアルすぎるとつまらない。

ガビンなるほど。

いとう例えば「私は」という一人称で書いた小説を書くとすると、「私はナイロン素材の緑の上着を着ていて」みたいに「私」を描写しすぎると、その人のカメラで動かせなくなるんですよ。「私は二十代後半で」くらいの漠然とした描写にしておいた方が「私」がよく動くんです。その事ってゲームととても近いというか、パラレルだと思っているんです。で、そういう意味でいうとあんまりゲームはやらなくなっちゃったね。入り込めないし。

ガビン入り込めないですか。

いとううん。そういえば10年くらい前に陶芸のゲームのことを考えた事があったんですよ。10分くらい集中して壺を作って窯に入れたら、あとは一日一度その窯をたまにのぞくだけ、要するに操作しない時間の方が長いとか、想像できない事があるとかっていう事の方が大事なんじゃないかっていうふうに思ったんです。

ガビン確かに。

いとうなんだけども、今はもう一回りして、さっきの田尻君のマルチ画面の話しじゃないけれども、Twitterが出てきたことでその想像のできなさみたいなもの、何を見て言ってるんだかよくわかんない他人の一言みたいなものがブワーっと同時並行するっていう、そういう面白さがゲームの中に帰ってきたような気がする。

ガビン帰ってきましたか。

いとううん。昔は友達に電話して「今何面まで行った」とか「ここの壁どうするの?」みたいに不自由ながらも情報をやりとりできていたのがよかったんだけど、攻略本やネットの発達なんかで全貌が見える時代になっておもしろくなくなった。だけどもう一回全貌が見えない時代になってきたわけじゃない。

ガビンああ、なるほど。

いとうそうなるとちょっとおもしろいかもねっていう風には思ってる。情報は錯綜してるんだけど、同時になんだかよくわかんないけどみんなで攻略していくみたいな。ネット時代の新しい親和性みたいなものが爆発的に広がっていくんじゃないかなあ。それがどんな形のものかはまだわからないのだけども、面白そうなんじゃないかな。そういうゲームがあったらやってみたいなあ。

ガビンまあでもゲームをやらなくても、ふだんの生活がゲームみたいになってるわけですよね。

いとうまさにTwitterとかそうなってるよね


ガビンさて、パックマンも今年で三十歳を迎えた訳ですが、最後にメッセージを頂けますでしょうか。

田尻三十年間愛され続けているというのはなによりすばらしいことだと思います。これからもパックマンの歴史を引き継いだ、すばらしいゲームが出てくることを心待ちにしております。

ガビンありがとうございます。

いとうポケモンは何歳なの?

田尻96年だから14歳ですかね。ポケモンは本当に死ぬ思いで作り上げたゲームですので、なんとか結果がでて良かったと思っていますし、当時のゲーム界にもいい影響を与えたとは思っています。

ガビンそう思いますよ。携帯ゲーム機の歴史はポケモンが出なかったら、今全然違うものになってたでしょうね。「そういえば昔ゲームボーイっていうハードがあったよねえ」みたいな事になりかねなかっただろうし、もちろんニンテンドーDSも出なかったでしょうね。

いとうそうだね。歴史を変えたよね。

田尻初代ゲームボーイって今のゲーム機に比べるとドットもちょっと粗いんですよね。でもだからこそできることがあるだろうといろいろ工夫して、ゴールを見据えて完成までとりかかってたつもりなんですけど、思いのほか時間がかかってしまって苦労したんですよ。ま、それが報われたということで感謝感激しております。

(一同笑)

いとうほんとだよ(笑)

ガビンせいこうさんもパックマンになにか言ってくださいよ。

いとうまあ、いつまでもカワイクいて下さいっていうことだよね。それってすごく重要なことだよね、あんまり女の子向けするキャラってゲーム界にいなかったもの。

田尻そうそう。初めて女性がテレビゲームやろうって思ったゲームなんですよね。

ガビン岩谷さんもその辺りは明確に仰ってましたね。

田尻すごい事ですよね。

ガビン田尻さんはあまりメディアに登場しないじゃないですか。だから今回もダメかなと思いながら連絡したんですけど、どうして出ていただけたんですか?

田尻僕はパックマンはゲームとして本当に素晴らしいと日頃から思っていまして、そういうお話が出来るチャンスを頂いたので、今回は喜んで受けさせていただきました。

ガビン語っていただきました(笑)

田尻今回は大好きなパックマンの話しということだったので(笑)

ガビン大喜びで(笑)

田尻はい。光栄だったんです。

ガビンありがとうございます。

※1 大滝詠一:

日本のミュージシャン。1969年に細野晴臣、松本隆、鈴木茂とともに伝説のバンドはっぴぃえんどを結成。解散後はソロ歌手作曲家として活躍。

※2 SPIDER:

株式会社PTPが製造・販売するハードディスクレコーダー。1ヶ月分の全チャンネル・全番組を自動的に録画し、後からキーワード検索などを使って後から見たい番組を見ることができる。

※3 カルトムービー:

巨大な予算で作られたハリウッド映画ではなく、少数の熱狂的ファンに支持されるマイナーな映画のこと。

※4 ジョン・ウォーターズ:

米国ボルティモア出身の映画監督。ピンク・フラミンゴ、フィメール・トラブルといったカルトムービーの傑作を多数製作、近年はヘアスプレー、I LOVEペッカーといった作品で一般的にも成功を収めている。